SAYA072162920

スーツを着こなしたM子が僕の仕事場で社長就任の挨拶の練習をしている。
 M子の社長就任まで残り1週間余り、
かなりきつい注文を出しているつもりなのだが、
文句も言わず素直に僕の言う事を受け入れて、
就任挨拶の練習をしている姿を見ているとちょっぴり可哀そうな気もするけど、
これだけは乗り越えてくれないと先に進めないものね。
と、言う訳で、まるで初日を迎える舞台稽古のような猛特訓の毎日です。

「私がこの度社長に就任した・・・・」
「あっ、ちょっと待って。表情が硬いよ」
「喋り出す前に一呼吸してニコって笑ってごらん」

言われたままM子がニコッと笑う。
「そう、それだよ。M子スマイル」
「そして、そのまま皆を見渡すんだ」
「社員は社長が何を喋るんだろうって、皆、緊張してるから」
「社長がニコッとすれば聴く方も緊張が和らぐだろう?」

「いい?大勢の前で喋る時は、まず、相手をこちら側に引きつけるんだよ」
「気張る必要なんかないよ。いつものM子でいいんだから」
「はい、わかりました」

「緊張するって事は、聴く側によく見てもらおうとか、
かっこよく喋ろうとか、上手く喋ろうとかするから緊張するんだよ。
カッコつけなんかしないで普通に喋ればいいんだよ」

自然体で喋れば上がる事も緊張することもない。わかった?」
「はい」

「あとね、早口になりがちだからゆっくり喋ること」
「喋りは間が大事なんだよ。間をおかないで喋ってないと
不安になるかも知れないけど、機関銃のように喋べられると、
聞いている方だって疲れちゃうでしょ?」
 
なんか、タレントのマネージャーをやってるみたい。
M子が新人タレントに見えてきた(笑)
 
昼からM子が新社長になる会社を訪問した。

総務部へ行くと全員が起立して、僕たち2人を迎えてくれた。
10人ほどいる総務部の人達に1人1人挨拶を済ませ、応接室へ。

神経質そうな顔をした総務部長が淡々と今後のことや
就任式のスケジュールを説明してくれた。
この会社には秘書課はないらしいのだけど、
総務部の女子社員をM子に付けてくれるらしい。
そして、万が一を考え、M子の送迎は社用車でするらしい。
そのために、送迎用の車を購入したとも言っていた。
きっと、これもM子の父親の配慮なんだろうな。
ちなみに、副社長待遇の僕には送迎車の用意はないそうだ(T ^ T)

総務部長に案内されて社長室へ。
社長室にはM子の父親が待っていた。

「〇〇君、無理なお願いをして悪かったね。宜しくお願いしますね」
「とんでもございません。ご期待に添えるよう一生懸命がんばります」
「2人の事は総務部長に話しておいたから、
何かあったら彼に相談してくれたまえ」

「M子、社長就任まで何日もないけど、大丈夫か?」
「大丈夫よ。毎日〇〇さんにしごかれているわ」と言い、笑っているM子

毎日、不安な気持ちで一杯なのだろうけど、
そんな素振りは全く見せずに普通に振る舞っているM子
恐い物知らずというか度胸が据わっているというか、
小心者の僕にはとてもまねできない。

M子の猛特訓 社長就任まであとわずかです。